
つい先日のこと。
平日にもかかわらず仕事がたまたま休みで、とあるイベントに参加してきた。
知り合いに、Aさんという女性がいる。
その女性とはSNSを通じて知り合ったのだけど、一般人にもかかわらずインスタで2000人ぐらいフォロワーがいて、超空腹時に見てしまったらDMで殺害予告を送りたくなるほどの美味しそうなグルメ写真を載せまくり、理解不能な人脈を持ち、高級タワーマンションのスイートルームでのパーティーに招待されて参加したり…と、中世ヨーロッパの貴族かな?と思ってしまいそうな、そんな一般人である…
というか、ここまで書いて冷静に考えると、もはや一般人ではない。
そしてそのAさんが、間違いなく僕にとってのアゲマンなのだ。
アゲマン、という言葉に昔からどうしても卑猥な響きを感じてしまうのだけど、アゲマンなのだ。
具体的に何がアゲマンだったのかを挙げてみると、
- 面白い仕事、おいしいお話を沢山紹介してもらった
- 外食時のお店選びで間違えることが無くなった
- 仕事やプライベートが一変しうる人たちとの人脈形成を助けてくれた
- メルカリで物が売れるようになった
- 無くしたと思っていた自転車の鍵が引き出しの奥から出てきた
- 最近、晴天が続いている
このように、挙げてみるとキリがない。
Aさんの爪の垢を煎じて飲みたい、むしろその煎じた爪の垢さえメルカリで売れるんじゃないか、そこまで思わせられてしまう御仁だ。
そんなAさんに、ある仕事を頼まれた。
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美人インスタグラマーを10人集めたお茶会をするんだけど、子連れもいて。
その間、子守してくれる人欲しいな、と…
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こんな、感じだろうか。
実は僕、少し前まで子供の相手はそんなに得意ではなかった。というより苦手な部類に入っていたかもしれない。
しかし最近、そのスキルがいかに必要なのかを痛感し、ちょうど絶賛修行中の身。
ましてやAさんからのお誘い。断る理由が、ない。
そんなわけで、行って参った。お店はこちら。
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普段は土日以外ランチ営業はしていないそうなのだけど、「頼んだらOKしてくれて〜」とのことだった。その力はどういうことだ。親戚か。
さて、聞いていたとおりに、美女インスタグラマーたちが続々と集まってくる。
年齢こそ僕と同じぐらい〜やや上だが、ヨガ教室をやっていたり、食育に関する仕事をしていたりと、「どう考えても美人が出来上がらざるを得ない」材料ばかりを取り揃えていた。天使たちが舞い降り、店内に光が差し込んだのは見間違えではなかったはずだ。
しかしこの天使たちは、僕の今日の相手ではない。
僕の相手は、天使が従えてきた、小さな悪魔たちだ。
悪魔は5人ほどいた。3〜6歳ぐらいで、世の中のあらゆるものに興味を持ち、そして畏れる心を全く持たない子どもたちだ。
僕は最近の子供の流行りなんか全く知らない。
仮面ライダーに全身黒タイツの男たちがまだ出てるのかどうかも知らないし、ポケモンだってルギアが爆誕したあたりで終わっている。そもそもポケモンが小さいこのうちで流行っているのかすら自信がなくなってきた。
そんなわけで、子どもたちと会って始めの頃はなかなかエンジンがかからず、ある子どもが持ってきたアイスクリーム型のスポンジを「そのアイス、食べていいかな?」とかいう良くわからないギャグを死んだ目で言い放ち、実際に噛み付いたりして子供を戦慄させていた。見る人が見れば、Walking Deadの撮影だと思われたかもしれない。
しかしその後、たまたま隣の席に座った女の子が僕にドハマリしてくれたため、そこからの僕は完全に右肩上がりだった。骨折して右肩上がらないのに。
その子は、「コーラについてきたストローを、天使のようにニッコリと笑いながらぐちゃぐちゃに潰す」というかなり猟奇的な遊びを好んだ。
大学まで卒業した僕からすると正直何が面白いのか全くわからなかったのだけど、潰すたびにニッコリしながら僕の顔を見てくるのだ。
その子はまだ4歳か5歳かそれぐらいだったのだけど、眼だけで男を意のままに動かす事ができる、そんな光を既にその眼に潜ませていた。
つまりこういうことだ。「私がストロー潰すから、お前潰されたストローの役やれや」と。
僕はストローの心の声を再現して、彼女がストローをいじるたびに「ぐぁ〜〜っ!苦しいヨォッ!!」「もう辞めてぐれぇぇええッ!!」「ぶぎょぶぎょごぼあsdfじゃsdf」と奇声をあげ、変顔をし続けた。冷静に考えて、合計するとまるまる20分は繰り返したはずだ。その間、まじでずっとその娘は笑い続けていた。爆笑だった。
僕は狂ったピエロを演じながら思った。
子供は本当に凄い。ストロー1本でいつまでも笑えるなんて、どこまでも純粋で、なんと安上がりなんだと。
出会い系アプリを開けば、「クラブとかお酒とか飽きた!なんか楽しいことしたい〜」とか、「面白い話ずっとしてくれる人ボシュ〜」とか、人間3周目みたいな女の子たちが溢れているというのに。そしてそんな快楽の閾値が上がってしまった女の子たちをどう楽しませて良いのかわからず、途方に暮れているおじさん達が数多く存在しているというのに。
もし僕が今の若い女の子たちをデートに誘い、ストローをいじりながら「ぶぎょぶぎょごぼあsdfじゃsdf」とか言うだけで爆笑を誘えたら、どんなに気楽なことか。しかしその時は、もうこの国はおしまいかもしれない。
さらにそのお店には絵馬を無料で書けるサービスがあったので、将来のお願い事を聞いてみた。
「ブランド物のバッグが欲しいな」とか「資産価値が下がりにくい金(gold)を保有したいです」とか、流石にそんな答えが出てこないことは分かっていたが、答えは予想以上に純粋で美しく、可愛かった。
「きりん組になりたい!」
…福音かと、思った。
こんなに純粋で誰も傷つけない夢を、一切の屈託のない笑顔で、質問されてコンマ数秒のスピードで答えられるだろうか。その美しいこゝろを、僕たちはどこにおいてきてしまったのか。
ちなみに「キリンさんが好きなんだね。でもゾウさんの方がも〜っと好きなの?」というギャグを放ってみたが、彼女をかすりもせず疾風の如く吹き抜けていった。
結果として、キリンに見立てたストローを彼女は原型を留めないまでに破壊していたし、僕が頼まれて一所懸命書いた「2本脚で立って朗らかに歌うキリン」の絵も、「そんなキリンいてたまるか」と一蹴されて上からダンゴムシの絵を描かれた。頼まれたから描いたのに。
でも、それでも敢えて言おう。子どもたちは美しく、汚れなく純粋だ。僕はまた少し、子供を好きになれた。
その後も彼らはピクシー妖精のように店内を走り回り、サインペンで机にまで落書きをし(あとで大人が一生懸命拭いていた)、突然真顔になってトイレで小便をしたかと思いきや、手も洗わないまま地面に落ちていたポテトを拾って僕に食べさせた。今の職場でも確かに地位はかなり低いほうだが、それでもここまでの扱いを受けたことはないように思う。これほどまで悪気なくSをやり切れる女王様は、恐らくどのSMクラブにもいない。
落ちたポテトを食べさせられ、暇さえあれば「ねぇ!!ストローやって!!」と言われて「ぶぎょぶぎょごぼあsdfじゃsdf」など奇声を発しながら、
"あぁ、きっと俺は、子供が出来たら相当甘やかすんだろうな"
そんなことを思ったのでした。その日は帰ってすぐ爆睡した。